「忍者はすごかった 忍術書81の謎を解く」は忍者の心構え、生き方などが記載されている。
忍術書の内容を訳して、さらには、それを現代に照らし合わせて解説しているので、一種のビジネス書と言ってもいいだろう。
この本では主に、
- 訓閲集(きんえつしゅう)
- 軍法侍用集(ぐんぽうじようしゅう)
- 万川集海(まんせんしゅうかい)
- 正忍記(せいにんき)
- 当流奪口忍之巻註(とうりゅうだっこうしのびのまきちゅう)
- 用間加條伝目口義(ようかんかじょうでんもくくぎ)
などに記してある文章を訳している。
第一章 忍びの情報学
●情報を聞き出す
●情報を伝達する
●信頼関係を築く など第二章 忍びのコミュニケーション
●つきあう相手を吟味する
●力関係を見極める
●相手と親密になる など第三章 忍びと禁欲
●欲を慎む
●欲心を利用して取り入る
●人は不思議なことに惹かれる第四章 忍びの使命
●素早く確実に任務をこなす
●忍びの道具と服装
●出口にあらかじめ「まきびし」を撒いておく など第五章 忍びの洞察力
●黒子の位置で性格がわかる?
●相手との感覚のズレを測る
●「酒」「色」「旅」で本章を知る など第六章 忍びの精神
●リーダーの心得
●心の上に刃を置いて「忍」
●忍術書を読んでも忍術は習得できない など第七章 忍びとは何か
●名声を博すようでは一流ではない
●弟子に「大きな瓶を盗んでこい」といった師の真意
●正攻法だけでは相手を落とせない など
はじめに
先ほども述べたとおり、この本では主に忍びの心構え、生き方、人間関係について書かれているが、「はじめに」では忍びの知識が記されている。
例えば、忍者は歴史的に見ると「忍び」として呼ばれていたり、地方によって忍びの名称が違う、などというものだ。
具体的には、忍びは、
- 乱波(らっぱ)
- 透波(すっぱ)
- 草(くさ)
- 奪口(だっこう)
- かまり
など、忍びはいろいろな名前で呼ばれていたらしい。
他にも、忍術書の中でも有名な「万川集海」についても触れられている。
ざっくりと忍びのことについて記されているので、読みやすい。
第一章 忍びの情報学
「第一章 忍びの情報学」では、忍びに対して、人間関係と情報の大切さが書かれている。
今ではインターネットやメディアが発達しているので、知りたい情報は検索すればすぐに分かる時代だが、当時はもちろん、インターネットなど存在しない。
そんな時代に生まれた忍びたちは、どのように情報を仕入れ、主君に報告するか考えていただろう。
その忍びたちが情報収集に役立つと考えたのが、「人に教えてもらうこと」だった。
しかし、一部の人たちと交流していたら情報は限られてしまうし、相手にうそをついていたら相手に信用されなくなり、たいした情報は得られないだろう。
そのため、いろいろな人と話をして相手の好感度を上げておくことが重要だった。
「忍者はさまざま術を使う」というのは有名だが、実際は相手の信頼を取って、情報を手に入れるのが重要だったらしい。
しかし、口先だけの人間になると相手から疑われてしまうので、表面的に話をするのでは意味がないとも書かれている。
第一章で特に面白かったのは「五千の敵がいたら三千と報告する」というページだ。
これは『訓閲集』から引用されている。
物見より帰りて大将に向かって、敵は大軍にて推し来るなどと敵の勢を告げることなかれ。味方の諸卒、気に弱みつくぞ。五千の敵をば三千と申すべし。その時、大将は五千と心得たまうものなり。 『訓閲集』
単純に敵の兵力を言うのではなく、味方の士気も考えた上で大将に報告するのが望ましい、と説明されている。
これは『訓閲集』だけではなく、
- 中国古代の兵法所『三略』
- 蓬左文庫所蔵『用間俚諺』
にも、同じような内容が記している。
確かに、本当の兵力を言ってしまえば、味方の士気は下がり、戦場でも本来の力を発揮できないかもしれない。
とすれば、大将と忍びが「暗黙の了解」を身に付けておいて戦場に出向いたほうが、味方も臆することなく、戦に向かえるはずだ。
これを理解していない大将、あるいは忍びがいたら、お互いの意思疎通ができていないことになってしまう。
あるいは「敵を多く報告する」というのが大将や忍びの常識であったとするなら、それで大将や忍びの才能を試せるきっかけだったのかもしれない。
他にも「秘密をしゃべらせる」と「相手をほめて気持ちよくさせる」では、現代でも役立ちそうな内容が書いてある。
「相手をほめて気持ちよくさせる」
さとりにくきは人のこころなり。その事を語らせんとする時は、猶深くかくす。故に、まず余りごとを語りて其の事を引き出し、其の利におごらしめよ。言のはしを求めて是をゆるすべからずと云。 『正忍記』
ここでは、「聞きたいことがあるなら、まずは関係ない話をさせて相手を誉め、その関係ない話の小さなところから情報を聞き出せ」と記されている。
今の時代だと、情報を盗む必要はないだろうが、それでも相手との関係を保つために相手を誉めることは重要だ。
これは会社で働いているサラリーマンに、有利なテクニックだろう。
あるいは、この『正忍記』の一部だけを利用するのもいい。
なかなか話が進まない人に対しては、最初は話を聞いておき、その関係ない小さい言葉から本題に進ませる、という手もある。
第二章 忍びのコミュニケーション
「第二章 忍びのコミュニケーション」では、人間関係について、第一章よりも深く記載されている。
- 付き合う相手
- 違う世界の人
- 相手の賢さ
- 人との話し方
などのようなことだ。
「まったく違う世界の人と親しくしておく」では、友達関係に対して、かたよったものではなく、さまざまな人と関わりを持つのが良い、とされている。
同じ趣味を持った人との会話は楽しいが、それだけでは意味がない。
他の趣味、あるいは価値観を持っている人と仲良くなることによって、ヒントを得ることができる。
もちろん、それは自分の成長だけではなく、忍びの仕事としても役立つ。
忍びは特定の場所だけではなく、いろいろな場所で情報収集をしなければならない。
忍びは誰にも見つからないように夜に行動するときもあるが、昼でも、商人や一般人に変装して現地の人と仲良くし、情報を手に入れる、という手法も使う。
よくにいう、仮の姿、というやつだ。
あらかじめ現地の人に話を聞くことによって、潜入するときでも、その土地の地図や気候、価値観を知ることで任務をスムーズに進められることだろう。
これを、現代で例えると、外国旅行に似ている。
仮にアメリカに行く場合、日本の知識や価値観だけで良くと、驚かさせることばかりがおきる。
- 学校の制度
- 英語の使用
- 他の国への価値観
- 宗教
- 自国への価値観
- 文化
- 食べ物の食べ方
など、さまざまな違いがある。
単に旅行という名目でアメリカへ行くなら問題ないが、忍びの場合は、(アメリカではないが)そこで情報を持ち帰らねばならない。
仕事場所で驚いてばかりだと、忍びとしての任務を全うできなくなる、
しかし、その場所の価値観や風土を知ることによって、現地の人とも仲良くでき、仮にそこで忍びの仕事を任せられても、スムーズに対応できるのだ。
現代では、忍びが存在しないので情報を盗む必要はないが、自分の成長のためにも、さまざまな人と関わりを持つのがいいと思う。